全国連絡会議の発足について
2022.09.01
宮崎大学農学部の藤掛一郎教授(顧問)が本会議発足に際して『森林と林業』に寄稿された記事が先日掲載されました。発行元の日本林業協会の特別のご理解で本ホームページ全文転載させていただきます。本会議発足までの経緯がよくわかりますので、ぜひご一読ください。
まえがき
森林の伐採は、木材生産のためには必要であるが、これを生産効率一辺倒で行うなら、環境、また資源の持続といった面で様々な弊害をもたらしかねない。これを適切に行うには、知識、技術、倫理、経験と判断力、様々なものが要求される。戦後営々と培ってきた人工林資源が成熟期を迎え、これを収穫するとともに持続的な循環型林業の構築につなげていこうとする日本林業にとっては、この重要な伐採の仕事が適切に担われるための仕組みを備えていくことが必要であろう。
私も参加するNPO法人ひむか維森の会は、このような考えで、戦後造林資源の主伐が全国に先駆けて広がった宮崎県において、素材生産の現場に社会的責任の考え方を持ち込み、生産効率一辺倒ではなく、環境への配慮や再造林につながる現場での実践を支えるための仕組み作りに15年前から取り組んできた。この取り組みは他県からも注目されるようになり、いくつかの地域ではそれぞれの地域の状況に合わせて独自の展開を見るようになった。そして、各地の活動が互いに学び合い、連携を深めるために、ガイドライン・サミットをこれまで4回開催してきたが、さらにこれを力強い活動とするべく、この度、全国連絡会議を発足するに至った。本稿では、これまでの経緯と会議の趣旨、考え方について紹介する。
私も参加するNPO法人ひむか維森の会は、このような考えで、戦後造林資源の主伐が全国に先駆けて広がった宮崎県において、素材生産の現場に社会的責任の考え方を持ち込み、生産効率一辺倒ではなく、環境への配慮や再造林につながる現場での実践を支えるための仕組み作りに15年前から取り組んできた。この取り組みは他県からも注目されるようになり、いくつかの地域ではそれぞれの地域の状況に合わせて独自の展開を見るようになった。そして、各地の活動が互いに学び合い、連携を深めるために、ガイドライン・サミットをこれまで4回開催してきたが、さらにこれを力強い活動とするべく、この度、全国連絡会議を発足するに至った。本稿では、これまでの経緯と会議の趣旨、考え方について紹介する。
これまでの経緯
NPO法人ひむか維森の会は、2008年に「責任ある素材生産業のための行動規範」と「伐採搬出ガイドライン」を策定し、個々の事業体任せにせず、素材生産業界がまとまって考え方や標準を示すことで環境配慮など社会的責任ある素材生産事業に取り組む活動を始めた。2011年にはガイドラインに則って素材生産を行う事業体を認証する認証制度を立ち上げ、2022年度現在、県内37事業体が認証を取得し、その年間素材生産量は60万㎥を超えるに至った。
鹿児島県森林組合連合会と鹿児島県素材生産事業連絡協議会は、隣県の取り組みを参考に、とりわけ再造林につながる伐採事業の実施を重視して、独自のガイドライン「伐採・搬出・再造林ガイドライン」を2016年に策定し、これに基づく認証制度を立ち上げた。これまでに21事業体が認証を取得している。
この他にも、2013年に長崎県対馬市が「伐採ガイドライン」を、2016年に島根県が「伐採者と造林者の連携による伐採と再造林等のガイドライン」を、2017年に東北のノースジャパン素材流通協同組合が「皆伐施業ガイドライン」を策定するなど、主伐が広がった地域でいくつかの取り組みが見られている。
情報共有・交流連携の場としてのガイドライン・サミットは、2017年度に宮崎で実施して以降、2018年度鹿児島、2019年度岩手、コロナ蔓延による延期を経て、2021年度に島根で開催してきた。
鹿児島県森林組合連合会と鹿児島県素材生産事業連絡協議会は、隣県の取り組みを参考に、とりわけ再造林につながる伐採事業の実施を重視して、独自のガイドライン「伐採・搬出・再造林ガイドライン」を2016年に策定し、これに基づく認証制度を立ち上げた。これまでに21事業体が認証を取得している。
この他にも、2013年に長崎県対馬市が「伐採ガイドライン」を、2016年に島根県が「伐採者と造林者の連携による伐採と再造林等のガイドライン」を、2017年に東北のノースジャパン素材流通協同組合が「皆伐施業ガイドライン」を策定するなど、主伐が広がった地域でいくつかの取り組みが見られている。
情報共有・交流連携の場としてのガイドライン・サミットは、2017年度に宮崎で実施して以降、2018年度鹿児島、2019年度岩手、コロナ蔓延による延期を経て、2021年度に島根で開催してきた。
連絡会議の発足
こうした各地での実践と交流の中で、さらに多くの地域に仲間を増やし、取り組みを全国で広めるとともに、互いの力を合わせてより大きな力を得ようではないかとの意見が強くなってきた。特に、鹿児島と宮崎は年数回の意見交換会を実施してきたが、そこでは、全国組織化を目指すべきとの意見でまとまった。
折りしも、2019年に始まった森林経営管理制度では、意欲と能力のある林業経営者の認定要件の例として、行動規範やガイドラインを備えることが挙げられ、多くの県で行動規範やガイドラインが策定されたり、例示されたりした。私たちは、これを私たちの取り組みへの行政による理解と後押しと受け止めた。しかし同時に、行動規範やガイドラインは単なる文書であり、言ってしまえば、コピーするだけなら簡単であるから、各地の取り組みを形だけで終わらせないためには、行政の動きに呼応して、私たちが積極的に全国に呼びかけ、実質的な活動を担う仲間を増やすことが必要ではないかとも考えた。
鹿児島と宮崎が主導して、2020年9月から組織化への呼びかけの会議を2回、発起人会議を4回開催して準備を重ね、2022年6月17日に東京で創立総会を行い、伐採搬出・再造林ガイドライン全国連絡会議を正式に立ち上げた。また、同日に第5回のガイドライン・サミットを170名を超える出席者のもと開催し、会の発足を披露することができた。
折りしも、2019年に始まった森林経営管理制度では、意欲と能力のある林業経営者の認定要件の例として、行動規範やガイドラインを備えることが挙げられ、多くの県で行動規範やガイドラインが策定されたり、例示されたりした。私たちは、これを私たちの取り組みへの行政による理解と後押しと受け止めた。しかし同時に、行動規範やガイドラインは単なる文書であり、言ってしまえば、コピーするだけなら簡単であるから、各地の取り組みを形だけで終わらせないためには、行政の動きに呼応して、私たちが積極的に全国に呼びかけ、実質的な活動を担う仲間を増やすことが必要ではないかとも考えた。
鹿児島と宮崎が主導して、2020年9月から組織化への呼びかけの会議を2回、発起人会議を4回開催して準備を重ね、2022年6月17日に東京で創立総会を行い、伐採搬出・再造林ガイドライン全国連絡会議を正式に立ち上げた。また、同日に第5回のガイドライン・サミットを170名を超える出席者のもと開催し、会の発足を披露することができた。
基本的な考え方と連絡会議のあり方
私たちは、素材生産は冒頭に述べた意味で大変重要な事業であり、環境や資源の持続性(再造林)に配慮した事業活動が行われるべきであると考えている。主伐は自然の大きな改変であり、ことによっては周囲と将来に深刻な負の影響をもたらしうる。十分な配慮が必要で、控えるべき場所もあるが、とは言え、主伐を一般に行うべきでないとまでは到底言えず、むしろ前向きに取り組むべきであろうというのが、この20年余り宮崎で主伐が広がるのを見てきた私の考えである。発起人会議でも、このような意見は多く出され、会議の設立趣意書にも盛り込んだ。
そして、環境や資源の持続性(再造林)に配慮した素材生産は、企業の社会的責任が問われる今日、現場を最もよく知る素材生産業自らが社会の要請に応える形で取り組むべきで、また、小規模な事業体の多いこの業界では、個々の事業体任せにするのではなく、業界が何らかの明確な仕組みをもって行うことが望ましいと考えている。具体的には、業界が自主的なガイドライン策定や、地域、行政との合意形成、第三者認証制度の導入といったことに取り組むことである。
自然条件を始め素材生産業の事業環境は地域によって異なり、抱える課題も少しずつ違う。業界がまとまりと主体性をもって活動するには、相応しい地域単位がそれぞれにあるであろう。連絡会議の主眼は、こうした各地の業界団体が互いにつながり、学び合って、力を付けることである。これまで以上に積極的な連携を図りたい。また、こうした取り組みを黙々と続けることもよいのかもしれないが、一方で、国民に素材生産の現状や取り組みを正確に理解してもらい、一緒に考えてもらうこともまた大事であろう。連絡会議はこうした情報発信も大事な役割と考えている。
連絡会議には、多様な会員資格を設けた。業界団体の主体性が大事である一方、行政からの関心、期待も強く、行政による指導・助長と連動していくことが望ましい。また、私のような研究者が業界の活動に寄与することも大事であると感じている。多様な主体が参画し、創造的に素材生産、主伐再造林のあり方を模索し、高めていける場となることを期待し、連絡会議には、団体会員、事業者会員、個人会員、賛助会員の4つの会員種類を設けた。興味を持っていただいたら、HPを見ていただき、一人でも多くの方に入会し力になっていただけると大変有難い。
そして、環境や資源の持続性(再造林)に配慮した素材生産は、企業の社会的責任が問われる今日、現場を最もよく知る素材生産業自らが社会の要請に応える形で取り組むべきで、また、小規模な事業体の多いこの業界では、個々の事業体任せにするのではなく、業界が何らかの明確な仕組みをもって行うことが望ましいと考えている。具体的には、業界が自主的なガイドライン策定や、地域、行政との合意形成、第三者認証制度の導入といったことに取り組むことである。
自然条件を始め素材生産業の事業環境は地域によって異なり、抱える課題も少しずつ違う。業界がまとまりと主体性をもって活動するには、相応しい地域単位がそれぞれにあるであろう。連絡会議の主眼は、こうした各地の業界団体が互いにつながり、学び合って、力を付けることである。これまで以上に積極的な連携を図りたい。また、こうした取り組みを黙々と続けることもよいのかもしれないが、一方で、国民に素材生産の現状や取り組みを正確に理解してもらい、一緒に考えてもらうこともまた大事であろう。連絡会議はこうした情報発信も大事な役割と考えている。
連絡会議には、多様な会員資格を設けた。業界団体の主体性が大事である一方、行政からの関心、期待も強く、行政による指導・助長と連動していくことが望ましい。また、私のような研究者が業界の活動に寄与することも大事であると感じている。多様な主体が参画し、創造的に素材生産、主伐再造林のあり方を模索し、高めていける場となることを期待し、連絡会議には、団体会員、事業者会員、個人会員、賛助会員の4つの会員種類を設けた。興味を持っていただいたら、HPを見ていただき、一人でも多くの方に入会し力になっていただけると大変有難い。
出典:藤掛一郎(2022)伐採搬出・再造林ガイドライン全国連絡会議の発足.森林と林業 2022年8月号、4-5、日本林業協会